

飛びっきり可愛いインテリアなのです。
お家のテリトリーである芝生も踏み越えて窓に顔をこすりつけて夕食の摸様を眺めていました。
カナダのトロントは北米、治安のいい都会、という噂は本当です。
これがアメリカならピストルを突きつけられ、もしくはお家の中から人がピストルを持ってきて「フリーズ」というところでしょう。
幸いにも誰からも咎められることもなかったので思う存分覗き見を堪能していました。
だってお家の中が本当に可愛いんです。
日本ならまずレースのカーテンがあって、その上に少し厚地のカーテンをかける、それも上部をフックで引っかけてただ天井から吊るすだけの、見せるカーテンというよりは光や外から覗かれないための目隠し。
ところが、カナダのお家のカーテンは、ただ布を巻きつけただけのものや上部を膨らませて止めてあるタイプのものや、とにかく斬新でユニーク、閉めるのが日的ではなく美しく見せることが目的の形をしたものばかり。
そんな美しいカーテンがソファとお揃いの生地でつくられたりしているのです。
はじめはあまりのすてききにこのお家はきっとインテリアデコレーターの家に違いない″と思っていたのですが、その家の隣も、そしてその隣も皆すてきなカーテンやソファや家具や飾りがいっぱいで一体このあたりはどんな人達が住んでいるエリアなんだろう≠ニ首を傾げてしまいました。
そこで翌日は地下鉄に乗って、五つほど離れた駅の違う街へ。
またまた夕暮れに紛れて人様のお家を覗きに行きました。
ここも昨日の街と一緒です。
どこのお家も絶句しちゃうくらい可愛いインテリア。
窓に額と鼻をひっつけて、一つも漏らさず見ようと私は必死でした。
よく見るとどこの家も蛍光灯は1つもなく、柔らかな電球の光で天井からではなくサイドランプでお部屋に陰影をつけ、くつろげる優しい空間を演出していました。
それまでの私にとって、洋書や映両の中に出てくるすてきなインテリアは現実のものでなく、あくまで非現実の世界実際にあったとしてもホテルやレストランなどの非日常的な場所のもの、そんな暮らしをしている人達が現実にその辺に住んでいるなんて考えられませんでした。
でも今私が目の前に見ているのは、そんなすてきな暮らしをしている生きた人達なのです。
お家の中でもカジュアルではあるけれどトレパンをはいたりはんてんを着たりはしていません。
洗濯物も散らかっていないし、耕間や雑誌もきちんとまとめて置いてあり、美しく整っています。
それからはほぼ毎日のようにハウスウォッチングをするのが私の日課になりました。
ハウスウォッチングといっても家を見るのではありません。
家の中を覗き見するのです.あまりいい趣味とはいえませんがそれくらいカナダの人々の暮らしに興味を持ち、探究してみたくなったのです。
でも驚くのはまだ早かった。
それから少しずつカナダでの暮らしになれていくにつれて、お友達も出来るようになり、覗き見しなくても正々党々と玄関から入れるようになったのです。
もっとつぶさにカナダの人達の暮らしを見られるようになり、私の驚きと興味はよりヒートアップするのでした。
黒い壁紙にピンクのふち飾りですごい個性的なおトイレ全体が映し出される大きな鏡。
あめ色のカゴの中にレースのついた真っ黒なゲストタオルが五枚。
美しいローズ柄の陶器の容器には香り高いポプリ。
私はおトイレの鏡の前で思わず立ちすくんでしまいました。
キッチンはどこのお家も日差しのたくさん入る明るい南側に位置していて窓が大きくとってありました。
キッチンの真ん中に大きくカウンターがとってあり、セカンドの小さな流しがついていて、そのカウンターで家族が一緒におしゃべりしながらお料理をしたり、今日あった出来事を伝えあったり、子どもはそこでお母さんとお話しながら宿題をするしキッチンお家で一番大切な家族の集う場所でした。
そのキーノナンの流しの周りにおいてある愛らしい小物.女の子と男の子の形をした陶器で出来たソルト&ペッパーだったり、ぶどうのひと房を形どった入れ物、可愛いさくらんぼのつまみをひくと物入れになっているブリキの収納ボックスなどなど。
それまでの私にとってキッチン=台所はお料理をさっさとつくって別の部屋に運ぶところ、台所においてあるものは全部シルバーでメタリックなもの、味も素っ気もないもの、という方程式が出来あがっていました。
でも今の什事をするようになってわかったことですが、私がカナダで見たいろいろなもののルーツのほとんどは実はメイドインジャパン、日本でこんな可愛いモノを戦前からつくっていたのです。
でもそれらは全部輸出向けでしたから、当の私達日本人がそれらを使ってすてきに暮らすなんてことは五〇年もあとのことになってしまったのですね。
カナダにいて思ったのはキッチンにこういう可愛いモノを置いて、楽しく心豊かに過ごすという発想は日本の古い「台所」からは出てこない感覚だということ。
だって、キッチンにいること=体を楽しむすてきな造りに全然なっていないし、台所はお母さんが人が悪戦苦闘している場所であって、家族が集い楽しむ場所ではありません。
こんなところからも人がどんなふうに住まうかということは、どんなふうに日々を過ごすかということと密接に関係があるんだ、という考えが私の頭を古め、もうすっかりカナダの人々の暮らしに魅せられてしまった私はどうしても一緒に暮らしてみて、もっと細かいことなど知りたくて思い切ってカナダ人のお家に居候することにしました。
それも住み込みのお手伝いさんとして。
これなら家事全般をまかされるからお家の中のことは全部把握できると大胆にもなんの家事能力もない、家の手伝いなんてそれまでほとんどしたこともない私が決断してしまったのです。
それから私のカナダ住人の一人としての生活がはじまりました。
私が一緒に住むことにしたご一家は生後半年の女の子と二歳半の男の子のいる三十代前半のご夫婦のお家。
ご主人は不動産会社を経常していて、奥様はクッキーの販売店をはじめようとしているところでした。
ごくフツーの、どこにでもいる家です。
私はこのファミリーを通していろんな方々と知りあい、たくさんのお家を見て回ることが出来ました。
その中でも、私にとって思い出深いお宅を紹介します。
マリアンは私達が住んでいたお家のお向かいのストリートに住んでいた、ちょうど赤ちゃんを産んだばかりのお医者様のカップルです。
初めてお家にあがらせてもらった時は本当にびっくり。
なんとベッドルームにバスタブがあるのです。
それも壁などなくて、なぁんにも仕切られていないのですよ。
古いハリウッド映画に出てくるような、このバスタブにつかってシャンパンでも飲んでいるハリウッド女優のような白分を想像してしまいました。
「こんなマスターベッドルームはないの?」なんて聞かれてしまい、だいたいこんなに天井が高くホテルの一室のようなお部屋は見たことがなくてただただ、口を開けて「すご〜い」と言うのが精一杯。
このベッドルームからして映画の中のワンシーンそのもの。
六角形に近いような形の部屋に、細長い窓が六個くらいついていて、高い天井から下がっているオーガンジーのような柔らかい素材のカーテンがお部屋を上品に優雅に仕立てあげています。
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